• インクジェットプリンタによるプラモデルへの塗装の応用2
    これまでインクジェットプリンタ対応のプラシートを利用した木甲板プラシートを開発してきましたが、2010年よりそれを改善した木甲板フィルムシートを作成しています。
    この木甲板フィルムシートでは実艦に忠実な木甲板の装備パターンを、1/700のスケールで再現、つまりこのフィルムシートでは人間には塗装不可能な1/1000mmクラスの塗り分けを行っています。
    また、シート厚は0.1mmと薄く、キットの甲板にあわせてカッティングしてありますので装着のしやすさはプラシートの比ではありません。 そのうえフィルムですので経年劣化の心配も他の素材より優秀です。
    ここではこの木甲板フィルムシートについての概要を説明させて頂きます。
    尚、実艦同様の木甲板装備パターンの印刷に関する情報に関しては「インクジェットプリンタによるプラモデルへの塗装の応用(木甲板プラシート編)」をご覧ください。
    木甲板フィルムシート技MIX用とフジミ用 木甲板フィルムシートを採用して頂いた完成品版技MIX戦艦大和

    プラモの問題点の再考と木甲板プラシートの開発
    プラモの問題点に関しては上記「インクジェットプリンタによるプラモデルへの塗装の応用」の「1.プラモの問題点:現場の塗装作業の問題点」を読んで頂ければと思いますが、 簡単にこちらでもまとめさせて頂きます。
    これまでも私はプラスチック板にインクジェットプリンタで塗装出来ないかネットで調べたり実際に試したりしてきました。 これは私が今まで模型を作る上で下記の問題点があると思ったからです。

    ・レーザー加工機をはじめとする様々な技術革新により模型製品自体のディテールがあがるにつれ、それらのディテールに
     釣り合う塗装をするには一般の人間にはかなり難しい作業になって来た。例えば甲板の塗装一つとっても以前は甲板上の
     構造物も少なく塗装自体もしやすかったが、現在では甲板上に構造物が多数モールドされているため塗り分けするにも、
     かなりの技術と根気及び時間が必要となった。

    ・現在の生活様式(趣味やコンテンツの多様化、ネットの普及)が変わることに対し、模型の塗装は手間がに多くお手軽に
     出来るというものではない。模型を作る際も現状スプレー塗装が主体となっているため、準備や後片付けを含むその塗装
     工程を考えるだけで躊躇してしまうようになった。また塗装工具も高価格化し、金銭的にも時間的にも作業的にも他の
     お手軽な趣味に比べてデメリットである。

    ・臭気そして廻りを汚すという塗装行為そのものが、家族や近隣に嫌悪感を与えている。

    ・塗装というのは基本一発勝負。やり直すにはシンナー洗浄など更に廻りの嫌悪感を抱かせる行程を行う事になる。

    もちろん、努力して技術を蓄えた人や、家族にも誰にも文句を言わせないような環境を構築した人からすればそんな生ぬるい ことと言うなというお叱りを受けるかもしれませんが、そのような人たちは艦船モデラーの中でも一握りでは無いかと思われます。

    こんな状況を改善するには何か方法が無いかと考えていたのですが、思い当たったのが同じようなプラスチック製品とも言える CD・DVDディスク表面へのインクジェットプリンタによる印刷。 つまりCD・DVDディスクのようなプラスチック媒体でも、下地剤によってはコンシュマーレベルでインクジェットプリンタを使いプラスチック表面への印刷が既に可能だと言うことです。 (業務用では金属やプラスチックへ直接印字出来るプリンタがありますが、とても高く保守料金も相当なものですし、またこれも独特の臭いがあります)

    そんななかひょんな事からインクジェット対応プラシートという製品が見つかり、これに甲板のパターンを印刷する事により既存の甲板と交換 (切り取る)して使うという方法を提案するに至りました。これが以前より試行錯誤していた木甲板プラシートです。
    艦船模型ではある作品より木甲板一枚一枚の色調を変え表現するというのが定着しています。 しかし1/700で実艦に忠実な木甲板のパターンを人間が直接塗装することは現実的に不可能です。 その理由を説明しますと、まず実際の日本戦艦の木甲板の1枚あたりの長さは当時の加工技術からすると6m程度の長さだったと思われます。 また木甲板は艦体のフレームに固定されますので、木甲板の長さ方向の繋ぎはフレームの位置となります。 日本の戦艦の場合、艦体のフレーム間隔は場所により1m〜1.2mで、木甲板の長さからすると艦体の5〜6フレーム毎に貼られる事になります。 幅は伊勢型までが150mm、長門型以降は125mmとなります。これが両脇1枚おきに1フレームずつ前後にずらして取り付けられてますので、 艦全長に渡り全て同じ長さの木甲板で取り付けられているわけではありません。
    つまり1/700のスケールだとその誤差差分の値は1/100mm以下となりますので、人が木甲板のパターンを塗装再現するには到底無理です。しかしパソコンと現行のインクジェットプリンタを使えば、 人間には到底再現出来ない数ミリ(1/700では1/1000mm程度)の差を再現したパターンの印刷も可能です。
    そこでインクジェットプリンター対応プラシートへフレーム毎に木甲板の長さを忠実に再現した木甲板のパターンシートを作成しました。

    これが木甲板プラシートと呼んでいるものです。 この塗装詳細に関しては、「インクジェットプリンタによるプラモデルへの塗装の応用」の「4.実践編:インクジェットプリンタ塗装方法による大和型の木甲板塗装」をご覧ください。

    木甲板プラシートのその後のステータスと問題点
    木甲板プラシートの開発開始は2006年7月で、翌月のワンダーフェスティバル2006夏に試験的に販売、またその年の東京の模型ショーでサンプルとしてメーカー(タミヤやアオシマなど)に渡したりしました。 (その後ウォーターラインシリーズ用に紙の甲板シートが出て来たのには驚きましたが)
    また、モデルアート2006年11月号の衣島尚一先生による連合艦隊編成講座 No.339「日本海軍戦艦超大和型」では大和用木甲板プラシートを使っての製作記事を書いて頂きました。
    WF2006夏に販売した木甲板プラシート
    しかしプラシートには以下の3つの問題点がありました。
    ・インクジェットプリンター対応プラシート自体の供給が停止
    ・インクジェットの塗膜が弱い。(水等で剥がれやすい)
    ・実際の取付や加工が大変である。

    塗膜の弱さはトップコート剤をかけることで解消出来たのですが、加工が大変な部分はなるべく艦上部構造物の少ない大和型や空母等の艦船を選択することでなんとか出来ましたが、 供給についてはメーカーに問い合わせ、ある分だけ余計にストックすることとしました。
    そんな中、技MIX用の戦艦大和のサンプル制作の依頼が入りました。今までの1/700戦艦大和の集大成的な製品であり、最新考証と可能な限りの正確な内容を盛り込むとの依頼でしたので、 この大和に木甲板プラシートを使用して作成する事にしました。尚、「菊と刀」さんの協力を頂き各部をディテールアップしています。
    技MIX用試作大和制作(1) 技MIX用試作大和制作(2)
    技MIX用試作大和制作(3) 技MIX用試作大和制作(4)
    技MIX用試作大和制作(5) 技MIX用試作大和完成
    技MIX用試作大和展示(1) 技MIX用試作大和展示(2)
    また翌年2008年には、衣島先生から中華製パチもの空母新農を頂き、これを作成の上フネカン2008にエントリーしました。 これはマルイの空母赤城のパクリものですが、信濃と誤解しているようです。
    この飛行甲板を当初デカールで作成したのですが、大面積過ぎて塗膜が剥離し使い物にならず結局プラシートにて作成して出品しました。
    中華製空母新農
    中華製空母新農用飛行甲板作図 中華製空母新農完成
    しかしプラシートの供給は殆ど行われなくなり、木甲板プラシートの展開はこれ以降行き詰まってしまいました。

    木甲板フィルムシートへの道のり
    その翌年フネカン2009でアオシマのリニューアルWLS扶桑を作る際、静岡共同の甲板シートを使ったところなかなか良い感じでした。 30cm戦艦扶桑制作(1)
    30cm戦艦扶桑制作(2) 30cm戦艦扶桑制作(3)
    30cm戦艦扶桑制作(4) 30cm戦艦扶桑完成
    確かにプラスチックへのインクジェットプリンタからの塗装という趣旨からは離れますが、艦船模型をより手軽に作れると言う意味では魅力的です。しかし以下の点が気になりました
    ・スケールキット用でありながら木甲板の装備パターンは実艦に忠実でない。
    ・素材の経年劣化が気になる。
    ・艦構造物に沿って切り抜いてあるが、やはり公差が発生する。

    確かに3つの問題はあるが、自分のところには木甲板プラシート用に作成した実艦に忠実な木甲板パターンのデータがあるのだから、まずは薄い紙又はデカールに印字し 甲板形状に切り抜いて利用出来ないか検討しました。
    そこで型を切り抜く為、コンシュマーレベルのレーザー加工機または業者がいないかを調査しましたが、とても個人で対応できる価格ではありませんでした、
    次に検討したのがグラフテックやローランドから出ているカッティングプロッタです。 値段的にはそんな高いものではないので、どの程度まで精度よく切り抜けるかははなはだ疑問でした。 しかし、大和型なら甲板上の突起物も少ないし最悪外形をある程度切り抜ければよいという判断で、グラフテックのクラフトロボを購入しました。
    コツは入りますが、恐ろしいほどの精度で切り抜けることが判りました。さすがプロッタメーカーの製品です。 時間と音には辟易しますが、きちんとした切削ラインさえ出せば高精度で甲板シートを作成することが可能です。
    クラフトロボでの制作、一朝一夕ではうまくいきません
    素材は市販のデカールシート、または0.1mm内外の薄い紙で試しました。 市販で売っているインクジェットプリンタ対応のデカールシートを使いまずは出力。今度はカッティングプロッタで切り抜きますが、 印刷した部分で切削するためどうしても切削部分に塗膜面が露出してしまいます。 このため、切削部分にトップコートをたっぷりかけたとしても水に浸す際塗膜が剥がれてしまいます。また甲板であるため切り出したシート自体が大きく、 また甲板上には細かい突起物等もあるため、伸びや調整をするうちに塗膜が破れてしまいます。シート自体の価格もそれほど安いものではないので採用を諦めました。

    次に薄い紙(市販で売っている0.1mm内外の紙)で試しました。甲板シートの場合、製品の艦体の上に取り付けるわけですから薄ければ薄いほどよいのですが、 レーザー切削を使用する場合紙が薄すぎると切削部分が熱でヨレヨレになる為、ある程度厚い紙でないとならないと某メーカーの方から聞いてました。 カッティングプロッタだとその点は問題ないはずと思っていましたが、薄紙であればあるほど腰が弱く、カッティングプロッタで切削出来ても、今度はシートが丸まり、 取付の際も固定に難儀しますし、湿気などを含むと貼り付け後に皺になるなど、どうも使い勝手が良くありませんでした。
    薄紙での切削テスト結果(1) 薄紙での切削テスト結果(2)
    そんな事を試行錯誤しているときにフィルムシートを見つけました。

    木甲板フィルムシートの誕生
    今回見つけたインクジェットプリンタ対応のフィルムシートは、紙と違い吸湿性の問題や劣化の問題を殆ど気にする必要はありません。また厚さが0.1mmと薄く、 その薄さにもかかわらず腰も強いので、まさに甲板シートにはうってつけです。インクジェットの剥がれも殆どありませんでした。 人間には到底出来ない精度で実艦の甲板施工に基づく甲板パターンを再現しており、本当の意味でのスケールモデルの為の木甲板シートが出来たものと自負してます。
    技MIX用大和用フィルムシート制作(1) 技MIX用大和用フィルムシート制作(2)
    技MIX用大和用フィルムシート制作(3) 技MIX用大和用フィルムシート制作(4)
    2010年の第6回艦船模型合同展に出した技MIX大和用フィルムシート
    フジミ用大和用フィルムシート フジミ用は高角砲座足場以外に艦橋防空指揮所リノリウム付
    フィルムシートを装着した技MIX大和(1) フィルムシートを装着した技MIX大和(2)

    木甲板フィルムシートの販売と今後の予定
    この製品は現在ホビーショップマキシム様にて販売しています。 ホビーショップ マキシム
    トミーテック技MIXシリーズ 戦艦大和専用
    木甲板フィルムシート 天一号作戦時
    フジミ特シリーズ 戦艦大和専用
    木甲板フィルムシート 天一号作戦時
    BS4311601-002 一般提供価格 1,800円 BS4312601-001 一般提供価格 1,800円
    またワンフェスにて販売しました。
    WF2010夏の出品 WF2011冬の出品
    また今年(2011年)8月発売予定のトミーテック技MIX戦艦大和完成品の甲板にも採用されています。
    トミーテック技MIX戦艦大和完成版
    フネカン2010では30cm空母翔鳳の飛行甲板をこの木甲板フィルムシートで作成してみました。
    30cm翔鳳用フィルムシート制作(1) 30cm翔鳳用フィルムシート制作(2)
    30cm翔鳳用フィルムシート装着(1) 30cm翔鳳用フィルムシート装着(2)
    今後はタミヤ大和用や、他の日本戦艦用も考えてます。既に長門型、伊勢型、扶桑型、金剛型のフレーム資料は入手しています。
    もし空母の甲板パターンを知っている方はご教授頂けるとありがたいですね。