モデルアート 2006年11月号の衣島尚一先生による連合艦隊編成講座 No.339「日本海軍戦艦超大和型」で紹介された、大和用木甲板プラシートに関してここで説明させて頂きます。 |
プラモデルをやめる(やめさせられる)きっかけ。 それは、家族からの「(シンナー)臭い」の一言だと思いませんか? ラッカー系塗料の臭気は、モデラーにとってプラモ趣味を辞める為の最大の要因の一つと言っても差し支えないと思います。 では、ラッカー系塗料からこの臭気を無くせないのでしょうか? 伝聞によると、都市ガスなどと同様シンナー等の成分がある事を知らしめるため、わざと臭気を付けているらしいですね。 これからするとラッカー系塗料の臭気は無くせないのでしょう。 だからといって模型業界も手を拱いたわけではなく、より臭気の少ないエナメル系塗料や、アクリル系、水溶性塗料も販売してはいますが、 ラッカー系塗料を駆逐出来たわけではありません。 それはこれらの塗料がラッカー系塗料の代替塗料と言う位置づけにしか過ぎず、また隠匿性、乾燥性、延び、塗膜の定着性、溜まり、気泡、ムラなどの 塗装性能がラッカー系塗料より劣っていたからだと推察しています。 だからこそ、未だに臭気の問題のあるにもかかわらずラッカー系塗料が販売されているのではないでしょうか? 私自身、塗料の問題にはいろいろと悩まされた経験を持ってます。 中高生の頃は臭気の問題で結局アクリルや水溶性塗料に切替ざるを得なかったのですが、社会人となって自宅から寮生活になった際、 再度ラッカー系塗料を使えるようになりました。その際、「これは魔法の塗料か?」と思うくらい快適な塗りでした。 しかし、結婚を期に模型趣味は一旦自粛する事になりましたが、息子が生まれニフティに個人入会すると自粛解禁し、また作成するようになりました。 でも子供の事を考えれば塗料はやはり水溶性塗料を使うほかありませんでした。 最近は室内に塗装ブースを付けてそこで塗装される方もいらっしゃるようですが、出来るのは自分の書斎または作業場所を確保し、 壁に穴を開けたり窓を改造出来る方ではないでしょうか? 実際私は持っていないのですが、吸引ファンの音もするでしょうし、 結局は臭気を外に排気するだけなのですから、家人や隣人からのクレームは来ないのでしょうか? そしてスプレー作業と同じくブース内の整備は必要ではないかと思います。 また例え臭気の問題が解決したとしても、塗装作業及び塗装のスキルもネックになります。 塗装の際、うっかり塗料をこぼしてしまう事は、プラモ趣味をやっている方なら何度か経験あるはず。 そして家人は、プラモを作ろうとすると、いつまでもその事を根にしてプラモ製作をやめるように迫ります。 スプレー作業だと、廻りの養生作業は不可欠ですし、塗装作業終了後のスプレー機器の整備が必要です。 それらの制約をはね除けて模型を作ろうとしても、今度は自分のスキルが問題になってきます。 ネット上には凄い作品が群がってますが、いざ自分でやってみると.... 筆塗りすれば筆ムラが...orz スプレーを使えばダマリが...orz そして時間的な制約。ネットワークなど他の情報媒体が発達した今、余暇の時間も昔ほど潤沢にあるようには感じません。 結局、模型を作ろうとしても、それらの事までを考えただけで、そっとパッケージを閉じてしまう方も多いのではないでしょうか? そして、プラモの山の上にまた一つ積む.... またはプラモ自体をやめてしまう... |
結婚する前くらいから会社の同僚のおかげでPCに興味を持ち始め、結婚直後に PC-8801FR30を購入しています。
しかしグラフィック性能に満足せず、しかも丁度そのころシャープより 65536色のグラフィックワークステーション X68000の発表
(1986年発表、翌1987年発売)がされたため、発売後1ヶ月くらいで入手しました。 グラフィック機能は満足しましたが、いかんせん出力がカラー熱転写プリンタ(エプソンAP-80K, AP-850C)だったので、 出力については画質もコストもとても満足出来る物ではありませんでした。 ところが1990年頃になると、シャープよりIO-735Xというインクジェットプリンタが発売されました。(注!もっと以前からあった可能性があります) ただし、定価が約25万円と高額である事と、解像度も180DPIしかなく見送る事にしました。 しかし1994年6月、エプソン初のコンシュマー向けインクジェットプリンタ MJ-700V2Cが発表。 これこそ当時の私が望んでいたプリンタに最も近かったので、即購入となりました。 その後 更に写真画質に進化したPM-700Cの後継機であるPM-750Cも購入、続いて2000年10月、PM-900Cも購入しましたが、 このオプション機能としてプリンタブルCD-Rへのダイレクト印刷機能がありました。 PM-900Cを手に入れ、プリンタブルCD-Rへの印刷機能を知ったとき、プラスチックであるCD-Rに直接印刷出来るなら、プラスチックへ直接印刷出来るのではないか? という疑問が湧きました。 丁度ニフティの展示会で、タミヤの1/700WLS 駆逐艦響を作成担当になっていたので、響の舷側を Photoshopで作成し、 タミヤのプラペーパにこのプリンタで印字してみました。(右写真) 一応写真では印刷出来ているように見えますが、実際には画質や定着性などとても満足出来るレベルの物ではありませんでした。 やはり染料系インクだと食い付きが悪いのかなと思い、この時は諦めて通常に作成して参加しました。 月日が流れ、2003年9月、エプソンより全色顔料系インクを使用したPX-G900の発表がされました。 待ちに待った顔料系インクです。程なく入手しエバーグリーンのプラペーパーで印刷テストしました。 が、結果は....散々でした。 取りあえず、インクジェットプリンタでのプラモ塗装のアプローチは一旦休止する事になりました。 | |
インクジェットプリンタによる出力テスト01 | インクジェットプリンタによる出力テスト02 |
2006年7月、フネカン2006の用意の為、競技番号用シールやら賞状用用紙やらを秋葉原のヨドバシ電気に買いに行ったところ、
インクジェット用プラ板なるものを発見しました。
本来はインクジェットプリンタで印刷した物をオーブンで温めて縮めてアクセサリーとして使うようなのですが、
0.2mm程度のプラ板として利用できないか検討する為試しに購入し、数日後その応用として甲板ライクのパターンを作り印刷して、簡単に切り抜いてみました。 印刷後数分もかからないで乾くのですが、塗面はそんなしっかりしていないので、コート剤で保護する必要がある事は判りましたが、 結構詳細に印刷できなかなかの使用感でした。 しかしこのマクセル製のインクジェット用プラ板は既に店頭在庫しかないようでしたので、改めてネットにて検索したところ、 インクジェットプリンタ用プラシートなるものを発見しました。 | |
インクジェットプリンタ用プラぱん | インクジェットプラシート(IJPP-PS1-005) |
メーカー:マクセル | メーカー:Joe Corporation |
Joe Corporation インクジェットプラシートについて 当時の商品内容は、値段はA4サイズ5枚入りで840円。厚さは約0.2mmです。 このサイズであれば大抵の艦艇の木甲板は印刷出来ます。 特に、甲板上に構造物の少ない大和型や航空母艦の飛行甲板には向いているといえます。塗装する苦労を考えるなら、 甲板部分をこれと取り替えても、再艤装にはそれ程苦労はしないでしょう。 最も他の戦艦でも甲板部分の塗り分けが楽になるので、何か工夫して出来ないかとも思っています。 また、大和型は捷号作戦以降フレームナンバーを甲板に書いたのではないかと言われますが、このプラシートを使えば、タンポ印刷みたいに書くことも出来ます。 でも本命は空母でしょう。 複雑なラインもPCで描いてしまえば楽ですし、何度でもやり直しもきくので時間的、精神的、溶剤の悪臭による家庭不和解消にも効果がありそうです。 しかも手で書いたりスプレーで塗装するよりも正確かつ詳細に表現出来るというのも既存の塗装法法を圧倒しています。 現状私自身が艦船系のモデラーなので艦船以外のアイディアしか出ないのですが、他にも面白い使い方が出来るかもしれません。 |
インクジェットプリンタでの塗装がどれほどの物かを検証するために、試しに作ってみました。 その方法は、イラストレーターで実際の甲板のサイズである150mmx3000mmの1/10のサイズの長方形を作成。 実際の甲板の貼り方を元に横に1/3ずらしながら並べます。ある程度色調を変えながら作ってコピペを繰り返し、 更に1/10に縮小し、甲板全面行き渡ったところで一気に14%に縮小し 1/700のサイズとしました。 これを原図としてプリンタの調整やドライバの変更、色調整等何度が出力試験を行い、ようやく満足できるものが出来たのですが、 掲示板やMixiでのご意見では汎用木甲板シートではなく、大和用木甲板シートと特化した方が良いとのことでしたので、 秋月さんやshin1966さんの書込、山野内さんの「模型 海と空」を参考に作成しました。 山野内さんのウェブ「模型 海と空」 | 木甲板試作2号 | 木甲板シートに大和型艦橋部を置いてみる |
第2試作までは、1枚の木甲板の大きさを150mmx3000mm としましたが、実際に木甲板の幅は125mm(軟材)〜150mm(硬材)で長さは約6mと言われています。 大和は檜(軟材)を使用しているので、125mm x 6,000mmを基本としました。 ただし大和の木甲板の長さは、後ほど記述するように各フレーム(船体の横材)を基準に木甲板を張っていたので、 実際には 6,000mm固定ではなく4,800mmから6,100mmとなります。 | |
大和木甲板図面忠実版 | 大和木甲板図面忠実版(拡大) |
で、この貼り方が大変です。当初は 1/3ずつずらしていましたが、山野内さんの「模型海と空」の工作のヒント1に書いてあるように
大和では各フレーム間で一枚おきに1フレームずつずらして貼られています。そこで、戦艦武蔵建造記録の折りこみ図面より、各フレームとフレーム間の長さを調査し、
イラストレータで1/700で寸法を引き、それを基準としました。板の貼り方は一枚おきに前後1フレームずつずらします。
この為 900mmの区間では木甲板の1枚の長さを5400mmとし900mmずつずらし、1200mmの区間では甲板の長さを6000mmとし1200mmずつずらします。
しかし、場所により1150mmとか1225mmとか変則の所を跨ぐ部分があり、この為木甲板の長さを調整するので、一筋縄にはいきませんでした。
それでなくても 1,100mmの区間とか、1〜5フレームしか続かないところとかあって、コピペが殆ど使えませんでした。 具体的に言うと、104フレームから109フレームだと、104〜105フレームが 1,225mm、105〜106フレームが1,150mm、106〜109フレームが1,200mmですから、 ココに貼る木甲板の長さは 1,225mm + 1,150mm + 1,200mmx3枚=5,975mm。しかし2枚隣は、105フレームから110フレームとなりますから 1,150mm + 1,200mmx4枚=5,950mm。その反対側2枚隣は、103〜108フレームとなりますから、1,225mmx2枚 + 1,150mm + 1,200mmx2枚=6,000mmと、 こんな具合です。しかも位置により全て違ってきます。 取りあえず2〜3日かかったものの、完成しました。 今回の技法を使えば、1/700でも実艦に忠実に1/700に縮小された木甲板を印刷する事が可能です。 その後更なる忠実性への追求として、アテネ書房の戦艦武蔵建造記録の図面から大和坂の傾斜の割り出しました。 フレーム 108を原点として No.108〜No. 89: l=23,100mm / 高低差 h=1,700mm : 木甲板の実長 23,162.5mm (+62.5mm) No. 89〜No. 61: l=30,650mm / 高低差 h= 150mm : 木甲板の実長 30,650.4mm (+0.4mm) No. 61〜No. 40: l=18,900mm / 高低差 h= 120mm : 木甲板の実長 18,900.4mm (+0.4mm) フレーム No.89以前は イラレでも直しようが無いのですが、No.89〜No.108に関してはこのフレーム間の全長が 62.5mm増加するため、 1フレーム均等に割り振ると約3.2mm/フレームの増加になります。 木甲板は1本で4〜5フレームとなりますから、1本あたりでは、12〜15mmの違いになります。それを 1/700にすると、 木甲板1本当たり 0.005mm程度の差になります。イラレは、0.001mmの単位で作図できますので、この差が出てしまいます。 ただ、PX-G900の縦解像度は 4800dpiですから、最小単位が 0.008mmとなり、木甲板1本ならそれ程違いは判りませんが、 木甲板4本以上だと0.02mmと違いが出てしまいます。この為、このフレーム間の修正することとしました。 そして、この大和型の木甲板が完成しました。 |
大和木甲板作図中 1(下図クリックで拡大) |
大和木甲板作図中 2(下図クリックで拡大) | |
大和坂修正作画中 | |
大和木甲板図面忠実版 | |
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大和木甲板大和坂修正版 | |
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大和木甲板(捷一号作戦時スル海:1944年10月26日) | |
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上の図は捷一号作戦時のスル海で黒色塗装が部分的に剥がれた状態を再現しています。 また右図は天一号作戦前の大和木甲板の状態を再現しています。この図では捷一号作戦時に破損した木甲板の補修部分が真新しくなっています。 |
大和木甲板(天一号作戦前:1945年3月28日) |
大和木甲板(天一号作戦前:1945年3月28日) | |
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フレームナンバーも数字で再現されています。 | |
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インクジェットプリンタによる模型への塗装方法の利点は、人間には不可能な微細な塗装が出来るだけではありません。
これまでの塗装方法の単なる代替の手法ではなく、より正確な考証とスケール性、表現が私のような積んどくモデラー、コレクターのような輩にも
手軽に出来てしまうことにあります。 また、これまで模型への塗装は殆どの場合1発勝負でしたが、この方式ではPC上での塗色やパターンの調整、紙への試し出力が繰り返し可能な為、 事前にいろいろな表現方法を試す事が出来ます。 つまり今まで、甲板の塗り分けを仕上げていく事が最終目標だったのが、今度は塗り分け甲板自体を基本として表現出来るのですから、 スケール性や考証性の向上だけでなく、表現の幅もグンと広がるわけです。 既存の塗装方法との比較表を作成してみましたのでご覧下さい。 |
項目 | インクジェットプリンタ塗装方法 | 既存の塗装方法 |
塗装範囲 | 専用プラ板のみ(平面のみ) | キット全て(曲面・立体可) |
透明プラ | インクジェットプリンタ対応透明プラぱんが必要。(現在絶版?) | そのまま塗装可能 |
必要工具? | PC、インクジェットプリンタ、DrawまたはCADアプリ | 最低限、筆と塗料と溶剤が必要。その他缶スプレー、エアブラシ、コンプレッサー、塗装ブース等 |
臭気 | 無し | 家人・隣人からクレーム |
天候 | 全天候性 | 湿気の多い日、雨降りは基本的に避ける |
事前準備 | 不要 | 汚れないよう廻りの養生が必要 |
筆ムラ、溜まり | 無し | 製作者のスキル(経験)、技術力に依存 |
後片付け | 不要 | 養生の撤去、エアプラシの清浄等が必要 |
乾燥性 | 2〜3分以下 | 10分以上 |
定着性 | 水を付け擦ると落ちるので、水性トップコートが必須 | 通常製作作業では必要なし |
隠匿性 | 濃い色はプリンタの設定が難かしい | 最悪重ね塗りで可能 |
詳細度 | プリンタと使用アプリの能力 (プリンタの能力: 〜0.005mm, アプリの能力: 〜0.001mm以下) |
製作者の能力・スキル・技術力に依存 (〜0.1mm位?) |
試し塗装 | 可能・用紙に納得いくまで試せる | 不可・基本的に一発勝負 |
既存方法と一長一短がありますが、この技法が模型作成の1技法として認知されれば、今後はもちろん、 これまでの1/700以上の艦船模型で適当に貼られた、または塗られた木甲板は考証的に問題視されることになるかもしれませんね。 もちろん、艦船以外でも応用方法があるかもしれません。 |
この塗装方法はまだ試行錯誤の最中ですが、応用範囲としては、木目パターンを使用した木甲板の作成や、ガッタ水道やチップの表現なども考えられます。 しかしながら最も期待したいのが、インクジェットプリンタの立体物への塗装です。 1.インクジェット用ベーススプレー 大和の木甲板を作りながら、その一方で「インクジェット下地用スプレー塗布によるプラモ塗装法の検証」も行っておりました。 |
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インクジェットプリンタ用ベーススプレー | このスプレーではうまくいかなかった |
2.油性インクジェットプリンタ既に上記油性インクを使用した油性インクジェットプリンタが発売されています。 3.インクジェットプリンタ用コート材
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このインクジェット用プラシートは、非常に面白い素材です。 艦船模型だけでなく、ペーパーモデル等への応用も考えられている方もいます。 私のような凡才ではなくもっと発想の広い方より、驚くようなアイディアを出して頂けると嬉しいですね。 また今後はPC用サプライメーカーだけでなく、模型メーカーや模型関連メーカーからもA3やB4等、いろいろなサイズをリリースして欲しいと思ってます。 |